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朝試写で『カラミティ』。昼、天義。具沢山でそこまで割高ではないがご飯やや少なめ。あとワンオペ店主がフェイスガードで味以前になかなか厳しいものが。

ヴェーラで二本。ハリー・ホーナー『優しき殺人者』。ロバート・ライアンの怖すぎるサイコ野郎演技が最高。かなり低予算だと思うのだが設定の面白さワンアイディアでよくここまで面白くできるなと。すっきりと二重人格者として描写されているわけでもないあたりがまた絶妙で、途中からは今は話通じるモードなのか、記憶はぶっ飛んでるのか、とただライアンが歩いてくるだけで謎のサスペンスが醸し出される。自分でシャツの内ポケットに入れた鍵のこと忘れてるあたりの演出が特にすごい。ジョセフ・ロージー『M』。ラング版忘れてるところもあるが途中まではわりと素直な翻案だったような。ただだんだんわけわからん展開になっていき、ギャング側の弁護士の方が頭おかしいのではという気さえする衝撃的な締め方。縦長のビルがらみの撮影、そこで犯人が隠れてた小部屋のマネキンを陰影バキバキで撮った場面、坂の撮影あたりも良かった。

 

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朝食後に上野へ。駆け込みで都美術館のイサム・ノグチ展。金属を使った彫刻もいくつかいいのあったが、全体としては岩から切り出しているものの方が好みだった。最後のフロアだけ撮影禁止にしていたのも良かった。香川とNYの庭園美術館は行けていないのでそのうち行かねば。

歩いて御徒町方面へ。昼は厳選洋食さくらい。はじめてだったのでハンバーグ食べたかったが時間足りずでオムライスセット。オムライスは正直特筆すべきものではなかったが、もう一回は行く。

こちらもはじめての上野TOHO。入口わかりにくい。ジェームズ・ガン『ザ・スーサイド・スクワッド "極"悪党、集結』。前二作があまりにもひどかったのもあり、気の利いた演出やしっかり笑える小ネタの数々にさすがは信頼と安心のジェームズ・ガンという感じでいちいち頷いてしまった。複数ジャンル映画を次々横断していくB級根性炸裂しすぎのサービス精神過多な盛り方も、余裕のなさは感じたもののまあ楽しめた。序盤の使い捨てメンバーを使ったゲスすぎる導入からまず素晴らしかった一方、キャンセル問題を経て不謹慎のアップデートを図ろうとする姿勢も随所に。ジョン・シナの扱いから動物系キャラたちやモブキャラ、悪役の雑魚キャラたちに至るまで、どういうタイミング、どういう相手ならキツめにいじったり血まみれにして殺してもOKか、そのあたりの線引きを相当慎重に考慮しつつ組み立てているのは明らかで、かえって最適解を追いすぎている印象に対して物足りなさを感じる向きもあるかもしれないとは思った。あとはYさんも言ってたがハーレイクイン周りの演出はあんま得意ではないゆえに無難になっていたところはあるか。最後にかけてのはみ出し者を力強く肯定する展開にはわかっていても涙が。

ショーン・レヴィ『フリー・ガイ』。ほぼトゥルーマン・ショーじゃんと思ってあまり食指動いていなかったが評判良さそうなので観てみたら個人的なツボど真ん中で泣きまくりだった。実際のところはトゥルーマン〜ゼイリヴ〜わたしは真吾と流れていくような展開で、設定や物語そのものはベタで手垢にまみれたものでサンプリングありきなところはあるもののなるほどこう繋げるのかという。あからさまなサングラスにとどまらない黒人バディとのやりとりも含めたゼイリヴへの確かなリスペクト、「やってくる」案件とも言えるAI≒モブキャラの成長をめぐる設定の妙、バトル場面でのどこかサウスパーク「Imagination land」を思わせもするめちゃくちゃな大ネタ連発ぶり、細田守が見習うべきゲーム実況と世界同時配信をめぐる同時代的な細部の描写などいずれも素晴らしい。あとストレンジャーシングスのファンとしてはスティーヴのトゥルーエンドぶりにもグッとくるものが。Twitterで見かけた感想で膝打ったのは屈伸煽りについてのもの。なるほどあれそうだったのか、と。その辺のゲームのプレイヤー視点の小ネタまできちっとおさえているという抜け目なさ。

移動中に読んだマラブーのラヴェッソン『習慣論』論がめちゃくちゃ面白かった。

 

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午前、バトラーBTM4章「ジェンダーは燃えている」。Paris is Burningについて、ベル・フックスによる批判も踏まえてイェール出の白人ユダヤレズビアンである監督ジェニー・リヴィングストンの立ち位置とカメラの権力性について指摘しつつも、単に白人的ファルス的な視点のみに終始するわけではないと再度ひっくり返す結論部が良い。類縁関係kinship?の文化的再編成によって創造される共同体のための言説的、社会的空間は評価できるという視点には納得。

そのときこの意味で、『パリは燃えている』が記録しているのは、有効な反乱でもなく痛みに満ちた再服従でもなく、その両者の不安定な共存である。この映画が証言するのは、反転的占有を予め排除することによって——その子たちはそれでもなおその反転的占有を遂行=上演する——その権力を行使する規範そのものをエロス化し模倣する、痛みに満ちた快楽である。 (183)そのときこの意味で、『パリは燃えている』が記録しているのは、有効な反乱でもなく痛みに満ちた再服従でもなく、その両者の不安定な共存である。この映画が証言するのは、反転的占有を予め排除することによって——その子たちはそれでもなおその反転的占有を遂行=上演する——その権力を行使する規範そのものをエロス化し模倣する、痛みに満ちた快楽である。 (183)

 

昼食後自転車で大学。本返して生協で新刊何冊か買う。

堀内正規『生きづらいこの世界で、アメリカ文学を読もう』。ルー・リード「パーフェクト・デイ」やホイットマン「カラマス」の繊細さをクィア的な側面をあえて強調せずに味読するあたりが真骨頂という感じで特に良かった。ディランのやつもはじめて読んだがらしさ全開であった。あとは死ぬ間際のブコウスキーの詩を論じたものを含め、マッチョ男性が時折のぞかせる脆さには一貫して関心があるのだなあと。とにかく定石や流行の読み筋にとらわれすぎずに自力でテクストとがっぶり四つで組んだ上で微細なポイントをすくいあげようとする姿勢に感服。自分もいずれはガチガチに先行研究で固めて武装した議論だけではなく精読ベースでエッセイ色の強いものも書いていきたいが、こういう議論はどういう立場の人がすれば許されるかをめぐるパフォーマティヴな問題が色々あるのも確かなので、まあもうちょい先か。

ネット上で公開されていた松本卓也訳でラカン「ファルスの意味作用」、同論考へのバトラーの批判を吟味したマラブーのバトラー論を。前者は訳注の充実ぶりがすごかった。フロイトのエディプスモデルがパパ、ママ、ボクなのに対して女の子バージョンは、という出発点から女性にとってのファルスの意味作用を考える。これも松本訳があるようだがリヴィエールの'Womanliness as a Masquerade'をベースに仮装や仮面のモチーフで女性性を解釈し、そこから浮気性の男や<他者>の欲望のシニフィアンとして自らを位置付ける女の特徴と絡めて両性それぞれのファルスへの欲望のあり方を分析する中で、男女それぞれの同性愛の解釈にも多少は踏み込んでいく。一方でマラブーは、同論考へのバトラーの批判から論を立ち上げる。

大豆田7話。かなり強引ではあるけど親友の死とオダギリジョーの登場で一気に転調する展開面白い。抽象的でわかりにくい語り方ではあったが、過去、現在、未来の瞬間をそれぞれ肯定するオダギリの議論は親友に加えて元夫たちにも適用されそうな感じも。

夜は頭働かず全然ダメだった。残りの採点は今週やるはずだったのだが・・・。

 

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『99%のためのフェミニズム宣言』。ケアマニフェスト同様にマニフェストということもあり、特にあとがきを除いてはかなり読みやすさに配慮した書き方になっていた。右派ポピュリズムに対置されるリーン・イン・フェミミズムやリベラルフェミニズム、それらの前提にあるネオリベラリズムに対する容赦ない批判が肝で、そのあたりの構図はそのままケア〜にも引き継がれているだろう。マルクス主義や政治哲学が専門の三人による共著だが、反緊縮はともかく、反資本主義といった時にスト・デモやって革命じゃ!でどこまで訴求力があるのかはやはりもやもやするところではあった。が、上からの政策レベルで実装可能な議論なんかしててもラチがあかなくなれば実際に各地で反乱が起きているとは言えるのかもしれず、そのあたりはむしろ自分の認識を改めるべきな気もしてきた。最近全く追えていないリフレ派周辺の議論も結局どうなったのかわからんのでそっちも読んでバランス取りたいところ。あと、ベテランこどおじとしては養育後に介護してくれなくてキレた母が息子を訴えた件についての記述がとにかく身につまされた。

大豆田8話。約束はどの時点で「重い荷物」、呪いに変わるのか。一方的な話ではなく相手への鋭い指摘が松、オダギリそれぞれに跳ね返ってくるブーメランとなっている。死者への喪だけではなく生きている恩人との関係、元夫たちとの関係性にまで共通する要素として提示してくるあたりが上手い。夫2、3の存在感が薄くなる一方でかごめつながりで微妙に変化する松田龍平との距離感も気になる。

ずっと家にいたらくさくさしてきたので日が落ちてちょっと気温落ち着いてから近所走った。それでも暑すぎてほぼ散歩に。道中でアトロクのピンチョン回。自分が俗説を引いたシンプソンズになぜ出たのか問題は濁されていたが、もしや公式には謎ということになっているのか。

大豆田9話。母からの一人でも生きていけるか誰かに頼るか?(細かいとこ違うかも)に対するある種の返答として自分で決めることを重視した結果オダギリが退場し、よく考えたら実質初の松田龍平回。夫婦続けてる仮想世界の描写がなかなか長くて驚く。店で松田が聞く謎の物音は、死者かごめの気配?

夜はやらなければならないことに取りかかろうと必死になっているうちに終わった。

 

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朝、準備。昼、面接。疲れた。家から出ず読書会の課題書をなんとか少しでも進めようとしたものの全然進まなかったが、そもそも会自体が延期になり事なきを得た。

メディウム』1号の梅田拓也による緒言と論考の前半。キットラーの議論全体における『書き込みシステム』の位置付けをざっと確認。ゲーテニーチェにそれぞれ代表される1800・1900に挟まれる19世紀、というところで考えるとちょうど真ん中あたりでゲーテから影響受けニーチェに影響を与えているエマソンを挟むといろいろ言えそうな感じもある。あんまりそういう期待で読もうとしていたわけではないのだが、研究にも色々使えるかもしれない。キットラー『書き込みシステム』から「学者悲劇」。そりゃ査読でもめるわ笑、という痛烈な大学人、学者批判からスタート。このへんも「アメリカの学者」とかSelf Relianceの「本の虫」批判に通底する視点か(そもそもゲーテ由来だった気もするが)。ファウストゲーテにおける官僚、官吏、役人文体というトピックが特に面白。それがドイツ国民文学へつながっていくあたりは、最近の論理国語をめぐる炎上などを思い出したり。署名、固有名、個の名詞に意味があった時代?としてのシステム1800。あとは適当だがアダプテーションとかパロディの議論も1900への移行と絡めて考えたら面白いかも。ハッチオンもそれぐらい考えてそうだが。

大豆田10話最終回。大豆田の母や父との関係に最後で帰ってくる。血縁や家族に頼らない共同性とか親密さのあり方を探っているように見えたここまでの展開からすると、存在感が薄かった父や母との和解を経て、娘とも仲直りして血縁家族の体面が保たれる展開はやや後退とも取れるような気もする一方で、明らかにかごめと重ね合わされている母の元恋人である女性との対面場面は悪くなかった。シスターフッドとかLGBTとか流行りの要素を入れ込んでいるだけである可能性はもちろんある(花束〜やANONEとかにもあったマーケティング要素としての社会情勢ネタ)とはいえ、結局は母と彼女の関係も大豆田が様々な人物たちと育んできた関係同様に、どこかで解消されてしまった側面はありつつも、当人たちの間でなかったことにされたわけでもない。長く苦しい「喪の作業」を通じて「重い荷物」を降ろす部分ではなく、死や別れを経た全ての親密な関係を可能世界的に同時に祝福することで荷物を軽くするといった方向が目指されているようにも。そう考えるとそちらはうまくいっているとは思えなかったが、「花束〜」のラストとも呼応するのかもしれない。そもそも中年以降の女性が主人公で不倫とかに頼らずにいろいろな親密性を丁寧に描きつつさっぱりした印象に落とし込んでいるだけでも、カルテット同様すごいドラマではあった。手を替え品を替えいろいろなアプローチで定型を崩そうとしていく作劇は、ある程度尺のあるドラマの方がやはり向いているとは思った。特にかごめが死ぬ6回目以降の毎回予想外方向に転がっていく感じはドラマの醍醐味だなーと。毎週時間を空けて見たらまた印象が違ったかも。なんやかんやでずっと追求しているのは60年代ヒッピー、コミューン的な価値観のアップデートなのでは、という気もするけど次回作も見ようと思う。

深夜寝付けず『メタモルフォーゼの縁側』まとめ読み。良すぎ。

 

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昼過ぎから三鷹へ。降りたのはじめてかも。三鷹市美術ギャラリー諸星大二郎展。原画中心、なかなかの充実ぶり。2000年代以降の作品を全然追えていなかったことがわかったのでコメディぽいのとかも含め改めて読みたい。

近くの中華そばみたかへ。空腹からトッピング全盛りの五目チャーシューワンタン麺を注文したが、あまりにうまくてびっくり。渋谷喜楽とかも含めたこのあたりの系統の醤油ラーメンで一番好みかもしれない。次回また行くための口実にジブリ美術館行こうかという程度には衝撃。

新宿に流れ、どうせ一週目だけだろうTOHOシネマ新宿の最大スクリーンでシャマラン最新作『オールド』を。

帰ったらカニエの新譜まで出ており流石にキャパ越え。とりあえず一周聴いたが困惑・・・。寝る前にリーペリーが亡くなったとのニュース。最後に観たのは2016年のフジロックだったか。

 

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午前試写。昼は居酒屋ランチ。味は悪くなかったものの入ってみたら店員も客もノーマスクのヤカラみたいなやつばっかりで疲弊。こういうことに神経を使う日々はいつまで続くのか。

買い物して帰ってもう一本試写観て夜は自炊。ずっとリーペリー近作流しつつ食前酒にレッドビール、ジャガイモの花椒炒め食べつつ他作って、真鯛のバジルソース煮焼き、クラムチャウダーで白ワイン。食後もう一本観て寝た。

 

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珍しく朝からちゃんと食べたのと午後からしばらく雨続きとの予報を見て、さらに珍しく午前中から走って長風呂。昼食前にちょっとだけ仮眠、と思ったらうっかり2時間寝てしまう。多分入浴剤のせい。

今日採点をやりまくる予定が、昼寝のせいでリズムがおかしくなり全く集中できないまま終了。星取りの原稿だけなんとかだいたい書いた。